メルマガ2018年12月号
メルマガ2018年12月号
メルマガ【2018年12月号】
1 労働組合がHPに記載した表現内容等は名誉毀損に該当するが、違法性が阻却されるとされた例
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【判例】
事件名:連合ユニオン東京V社ユニオンほか事件
判決日:東京地判平成30年3月29日
【事案の概要】
原告会社は、その労働組合である被告ユニオンに対し、被告ユニオンが原告会社の社会的評価を低下させる記事を被告ユニオンの管理するホームページに掲載したことが名誉毀損に当たるとして、不法行為に基づき、損害賠償を請求した。
同時に、原告会社の執行役員である原告Aは、被告ユニオン及びその執行委員長である被告Bに対し、(a)被告ユニオンが自己のホームページに原告Aがセクハラをしたとの事実を記載したこと、及び(b)原告会社の株主総会において被告Bが原告Aがセクハラをしたと発言したことがいずれも名誉毀損に当たるとして、不法行為に基づき、損害賠償を請求した。
【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。)】
1 名誉毀損の対象行為
(1) 被告ユニオンの管理するホームページに掲載した見出し等
被告ユニオンは、自身の管理するホームページに「●●(以下、「本件見出し〔1〕」という。)、○○(以下、「本件見出し〔2〕」といい、本件見出し〔1〕と併せて、「本件見出し」という。)」という見出しを掲載した。
「本件見出しの下には,「本件セクハラ事件の公表にあたり,補足をさせていただきます。(中略)交渉の場で会社は,真摯に対応するので公表しないでほしいと組合に要請し,組合も本件による多方面への影響を鑑みてそれを受入れました。しかし,その後の団体交渉で報告を求めたところ,コンプライアンス委員会での結論をもって会社はセクハラにはあたらないと結論付けたと明言し,説明を求めても義務的交渉事項ではない,の一点張りで一方的に話を遮ってしまう状況になってしまいました。組合としても,営業のトップによるセクハラ行為が間違いであってほしいと願っていましたが,はからずも目撃者の中には代理店だけでなく特約店も存在していました。会社の人間が代理店(ママ)の体に意図的に触れ,不快な思いをさせたのであれば,きちんとそれを認め,会社が厳正に対処するのは当然と組合は考えます。
しかし,会社はセクハラにはあたらないと結論付けました。繰り返しになりますが,意図的に女性の体に触れ,不快な思いをさせているにもかかわらず,セクハラではないと会社は明言しています。この会社の判断を組合は看過できません。そもそもそのような行為をしていないといっているのであれば,被害者・目撃者の証言と大きく食い違います。また,このような行為があったと言っているのならば,その行為がセクハラではないと明言する根拠が不明です。いずれにしても今の状況は明らかに職場環境の劣化につながるもので,当然この件は義務的交渉事項と組合は考えます。
以上の経緯から,組合は本件セクハラ事件について,このままでは被害者がいるにもかかわらず,何も無かったこととする姿勢は社会的に許されるはずもなく,よい会社となるべく内々で交渉しようとしましたが,それも打ち切られてしまったので,早期改善を願い止むを得ず公表に至った次第です。」と掲載されている。」
(2) (1)の見出しに貼られたリンクの先のページの記載
「本件見出しの横には,「詳しくはこちら」とのリンクを貼られた部分があり,そのリンク先には,「原告会社の〇営業本部長が今年3月のハワイセミナーのある日の晩,酔っ払ってツアーに参加していた某代理店(ママ)の体を数回触り,セクハラ行為を行ったのです」」という記載がある(以下、「本件記載」という。)。
(3) 株主総会における被告Bの発言
被告Bは、原告会社の株主総会において、原告会社の「執行役員でもあり,営業本部長でもある」原告A「は本年の3月のハワイツアー中に目撃者が何人もいる中で某代理店にセクハラ行為,まあ,酔っ払った加害者が3回に渡って,被害者の腕や肩から胸にかけての部分を触った」と発言をした(以下、「本件発言」という。)。
2 名誉毀損該当性
(1) 判断基準
「ホームページに掲載された記事の意味内容ないし株主総会での発言が人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは,当該記事や当該発言についての一般の読者ないし出席者の普通の注意と読み方ないし聞き方を基準として判断すべきである。」
(2) 本件について
ア 本件見出し〔1〕について
「本件見出し〔1〕は,一般の読者の普通の注意と読み方を基準とし,本件見出し〔1〕の下にある記事全体を併せて読めば」、原告A「が行ったセクハラが発覚したとの事実を摘示するものであり,読者に対し,」原告A「がセクハラに該当する行為をしているとの印象を与えるものであると認められるから」、原告A「の社会的評価を低下させるものといえる。」
イ 本件見出し〔2〕について
「本件見出し〔2〕は,一般の読者の普通の注意と読み方を基準とし,本件見出し〔2〕の下にある記事全体を併せて読めば」、原告A「が行ったセクハラを」原告会社「が隠ぺいしたとの事実を摘示するものであり,読者に対し」、原告会社は、「営業本部長である」原告A「のセクハラに該当する行為を故意に隠しているとの印象を与えるものであると認められるから」、原告会社の「社会的評価を低下させるものといえる。」
ウ 本件記載について
「本件記載は,一般の読者の普通の注意と読み方を基準とし,本件記載の前後記事を併せて読めば」、原告A「が酔っ払って,セミナーに参加していた代理店(ママ)の体を数回触り,セクハラを行ったとの事実を摘示するものであり,読者に対し」、原告A「はセクハラに該当する行為をしているとの印象を与えるものであると認められるから」、原告A「の社会的評価を低下させるものといえる。」
エ 本件発言について
「本件発言は,一般の出席者の普通の注意と聞き方を基準とし,本件発言の前後の発言を併せて聞けば」、原告A「が酔っ払って,セミナーに参加していた代理店(ママ)の体を数回触り,セクハラを行ったとの事実を摘示するものであり,出席者に対し」、原告A「はセクハラに該当する行為をしているとの印象を与えるものであると認められるから」、原告A「の社会的評価を低下させるものといえる。」
(3) 小括
「以上のとおり,本件見出し等の掲載等により,原告らの名誉を毀損したことが認められる。」
3 表現行為が正当な組合活動といえるか
(1) 判断基準
「本件見出し等の掲載等が原告らの名誉を毀損する違法な行為であるとしても,」
ア 「本件見出し等によって摘示された事実が真実であるか否か」
イ 「真実と信じることについて相当な理由が存在するか否か」
ウ 「本件見出し等の掲載等の目的及び態様等
の一切の事情を総合考慮し,正当な組合活動として社会通念上許容される範囲内のものである場合には,本件見出し等の掲載等の違法性は阻却されるものと解するのが相当である。」
(2) 本件について
ア 「本件見出し等によって摘示された事実が真実であるか否か」について
「セクハラとは,一般的には相手方の意に反する性的な言動をいうところ,前記のとおり,職場又は業務上の関係者間のセクハラについては,被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも,職場等の人間関係や業務上の取引関係の悪化を懸念して,加害者に対する抗議や抵抗等を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられることから(前掲最一小判平成27年2月26日参照),業務上の関係を有する男性の女性に対する身体的接触を伴う言動が被害者の意思に反するセクハラに該当するか否かは,接触の態様,程度及び目的,被害者の不快感の程度,上下関係を含む当事者間の従前の職務における関係,当該行為時の時間的,場所的状況等を総合して,社会通念上許される限度を超えるか否かによって決するのが相当である。」
本件では、原告Aの被害者に対する行為は、被害者に「羞恥心や不快感を覚えさせるに足りるものといえ」、被害者の「意に反する性的言動としてセクハラに当たるというべきである。」
したがって、原告A「によるセクハラを摘示した本件見出し等は,真実であると認められる。」
イ 「真実と信じることについて相当な理由が存在するか否か」について
「「隠ぺい」とは,物事を隠すことを意味するところ」、原告会社は、「当事者 及び関係者らから事情聴取を行い,コンプライアンス委員会の判断も踏まえて,本件行為は認められず」、原告A「にセクハラに該当する行為はなかったとの結論に至ったものであり」、「本件行為を故意に隠したことを認めるに足りる証拠はないから,その表現の適切性について疑問を差し挟む余地がある。」
しかし、原告会社「がセクハラに該当する本件行為が存在しないとの判断を出した時点において,被害者」「の供述及びそれに沿う内容の複数の目撃者供述が存在したことに加え,本件行為が前判示の限度で真実として認められることに照らせば,被告らとしては」、原告会社「の上記判断が事実をねじ曲げて隠したものであると受け止めたとしても,合理的な理由があるというべきである。」したがって、被告らにおいて、原告会社「による隠ぺいが真実であると信じたことについて相当な理由があったと認められる。」
ウ 本件見出し等の掲載等の目的及び態様等
(ア) 表現態様について
「被告ユニオンは,本件見出し及び本件記載とともに」、原告A「の行為はセクハラに当たらないという」原告会社側「の見解も併記していること」、被告Bは、「本件発言の際」、原告会社側「の見解も紹介していること,労働組合がホームページを通じて情宣活動をすることは一般的な活動であるといえること,本件見出し〔1〕及び本件記載は」、原告Aについて、「「○営業本部長」というイニシャルで表記しているため」、原告会社の「関係者以外の者が閲覧したとしても,「○営業本部長」が」原告A「であると直ちに特定できないこと,株主総会では」、原告会社の「幹部社員によるセクハラという問題の性質上,セクハラをした個人を特定して質問する必要があったといえることなどの事実を総合考慮すれば,本件見出し等の掲載等は,表現態様も相当なものというべきである。」
(イ) 表現の目的等について
認定事実によれば、「被告らは,本件セクハラ事件の被害者救済及びセクハラの再発防止等を求める労働組合の組合活動の一環として本件見出し等の掲載等を行ったことが認められる。」これに対し、原告らは、被害者は「被告ユニオンの組合員ではないから,本件セクハラ事件は,被告ユニオンの組合活動とは無関係であり,組合活動の一環とはいえないと主張する。」
しかし、原告会社「の代理店及び特約店の大半は女性であり」、原告会社「の営業社員はこれらの女性と宴席をともにすることがあるため」、原告会社「は営業社員に対して女性と酒席を共にする場合のマナーについて指導していたこと」、「営業本部長は営業職員に対してセクハラ防止を指導する立場にあること」「などの事実に鑑みれば」、原告A「が代理店の女性に対して,セクハラをしたか否かという問題は,営業本部長としての適格性の問題のみならず,部下である」原告会社「の営業社員の職場環境に関わる問題であるといえるから,被告ユニオンの組合活動の範囲に含まれるというべきである。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。」
エ 小括
原告Aによる「セクハラについて真実性が認められること,隠ぺいという表現 について真実相当性が認められること,本件見出し等の摘示等は,労働組合の組合活動の一環として被害者救済及びセクハラの再発防止等を目的としてされたものであり,その表現態様も相当なものであること,被告ユニオンは,当初,本件セクハラ事件の解決を」原告会社内の「自主的解決に委ね,非公表のまま交渉を進めていたこと」「などの事情を総合考慮すれば、本件見出し等の摘示等は,正当な組合活動として社会通念上許容される範囲内のものであり,その違法性が阻却されるから,不法行為は成立しないというべきである。」
4 結論
本判決は、上記の判断に基づき、不法行為に基づく損害賠償請求を棄却した。
【コメント】
本判決は、従業員のセクハラを会社が隠ぺいしていると発表した労働組合の行為、及び同組合員の株主総会での発言が、会社及び従業員の社会的評価を低下させるとしても、正当な組合活動として社会通念上許容される範囲内であるとして、違法性が阻却されるとしたものです。
団交の申入れ等をした労働組合とその執行役員個人に損害賠償請求をした事案は珍しいので、ご紹介します。
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